皆さんは、記録媒体というと何を真っ先に思い浮かべるでしょうか。古来より存在する記録媒体と言えば紙ですが、最近ではUSBメモリやSDカードなど、様々な種類のデジタル媒体に保存されるようになっています。
今回は、数ある記録媒体の歴史を紐解いていきます。
最古の記録媒体は洞窟壁画と言われています。原始時代の人々は洞窟の壁にさまざまな絵を描いていました。
現在知られているなかで最古級のものは、フランス南部アルデシュ県にあるショーヴェ洞窟壁画で、約3万2000年前の洞窟壁画といわれています。
他に有名なものはスペイン北部、カンタブリア州のアルタミラ洞窟壁画があり、こちらは約18,000年~10,000年前、いわゆる旧石器時代末期のものです。
いずれも世界遺産に登録されており、当時の人々の暮らしの様子がうかがい知れます。
紀元前3000年以前の古代メソポタミア時代に、初めて文字が生まれたとされています。粘土板を棒のようなものでひっかくことで記述された楔形文字です。「目には目を、歯には歯を」で有名な「ハンムラビ法典」は紀元前1755年頃にまとめられたとされ、ルーブル美術館に現存する記念碑は高さ2mを超える石棒で、楔形文字で282条からなる本文が刻まれています。
紀元前2500年ごろには、古代エジプトでパピルスが発明されました。カヤツリグサ科の植物の地上茎の内部組織を利用して作られています。紙(paper)の語源としても有名です。
紀元前2200年ごろに、現在のシリア北部にエブラという都市国家が存在しており、その遺構から楔形文字の記述された粘土板が大量に見つかりました。これは世界最古の図書館と言われています。それほどの昔から、記録と保管という営みが行われていたことがわかります。
粘土板は大きくて重い、パピルスは乾燥した地域でないと使えないという欠点がそれぞれにありました。それがバージョンアップされたのが紀元前1400年以降で、木簡や竹簡、羊皮紙といった記録媒体が出現します。
木簡・竹簡は木や竹でできた細長い短冊状の札で、軽くて小さいため今までの粘土板やパピルスより利便性が高く、長く使われることになりました。日本でも、奈良時代まで使用されていたことが分かっています。
羊皮紙は動物の皮を加工したもので、パピルスが入手できない土地や、湿度が高くパピルスの使用が難しい地域で使用されていました。
紀元後、2世紀初頭の中国で、現在の紙のルーツともいえる「漉き紙」の製法が確立されました。この技法はのちにイスラム圏を経てヨーロッパまで伝わることになります。
唐とアッバース朝の中央アジアの覇権をめぐる天下分け目の戦い。裏切りもあり唐が大敗、多くの兵が捕虜になっており、その中に製紙職人がいたため製紙法が西方に伝わるきっかけになったことでも有名です。ただし西洋で紙が作られるようになったのは12世紀になってからです。
日本では8世紀ごろに木版印刷が行われるようになり、さらに13世紀ごろには中国で活版印刷が行われ始めます。そこから時を経て、15世紀後半のヨーロッパで近代的な活版印刷が確立されたことにより、商業としての印刷が行われ始めることになります。
16世紀の終わりごろには鉛筆が誕生します。当初は鉛と錫の合金の外側に木軸を巻き付けたものでしたが、イギリスのカンバーランドで黒鉛鉱が発見されたことで現代と同じ仕組みの鉛筆が生産されるようになりました。日本でも、伊達正宗や徳川家康が鉛筆を使用していたそうです。
ちなみに最初の鉛筆は八角形で、芯は四角でした。また消しゴムの発明は鉛筆よりずっと遅く、1770年ごろで、それまでは古くなったパンなどが使用されていました。
1840年代には木材パルプからつくる紙の生産技術が確立され、大量生産が可能になります。1846年には輪転機が発明され、新聞印刷が始まります。
19世紀に入ると、紙と鉛筆以外にもさまざまな記録手法が生み出されました。
1801年に登場しました。厚めの紙に穴をあけ、その位置や有無で情報を読み取る媒体です。現代のコンピュータとも縁がある手法で、1970年代まで使用されていました。
1820年には世界初の写真が生まれますが、当初の写真は露光時間が8時間以上と非常に長く、実用的ではありませんでした。1839年にダゲレオタイプ、1841年にはカロタイプという手法が発明され、複製が容易だったカロタイプが普及することになりました。
さらにこの後、1980年代には乾板からフィルムへと移行し、写真撮影がさらに広く普及し始めます。
1877年にエジソンがレコードを発明します。当初は円盤型ではなく円筒型のメディアで、溝の深さで音の強弱が記録されていました。
1935年にドイツの電機メーカーAEGがテープレコーダーの原型を開発しました。当初は大きなオープンリール型でしたが、その後小型化が進み、1960年代にはフィリップス社が開発したコンパクトカセットとして発展しています。いわゆるカセットテープのことで、同種の発明は他の企業も行っていましたが、フィリップス社が製造権を無償公開して規格統一を推進したことからコンパクトカセットが流通することになりました。デジタル記録媒体に移行していくまでの数十年間、広く一般家庭でも利用されることになります。
1950年代に入ると、この磁気テープがコンピュータ用の記録媒体として利用されるようになります。情報はアナログからデジタルに移り変わり、様々な記録メディアが登場します。
1956年にはIBMによって世界初のハードディスクが開発されました。2020年代にはハードディスクからSSDへの置換えも進んではいますが、まだまだ主流といえる記憶媒体です。
1970年にはIntelがDRAMを開発し、以降のコンピュータの主記憶装置として、2022年現在も広く利用されています。
1976年にはアメリカのシュガートアソシエイツがフロッピーディスクを開発します。現在は既に製造も終了していますが、当時はデータを気軽に持ち運びするための携帯用記録ディスクとして広く普及しました。
フロッピーディスクの後継として、1982年にはソニーとフィリップスによってコンパクトディスク(CD)が開発されます。光ディスクによるデータの保存媒体で、こちらも広く普及しました。
同じ光ディスクとしては1995年にDVD、2003年にブルーレイディスクが開発されています。
1984年には東芝によりフラッシュメモリが開発され、1990年代に入ると記録メディアとして普及し始めます。2000年にはUSBメモリが開発され、携帯性の高い小型の記録メディアとして爆発的に普及しました。
このようにさまざまな記録媒体の歴史を振り返ってみると、今では当たり前のUSBメモリやブルーレイディスクですが、その登場はかなり最近の出来事だったことが分かります。逆に、1982年に登場したCDはいまだに現役です。19世紀に発明されたレコードが、近年になって再度注目されるというようなこともありました。
日常生活の中で、職場や学校、家庭だけでなく、ありとあらゆるサービスに必要とされる記録媒体は、今後も画期的な進歩を遂げていくでしょう。
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