長崎県を対象地域としたテレビジョン放送事業を行われているテレビ朝日系列局 (ANN)の長崎文化放送株式会社様からブルーレイディスク(BD-R)のデータ復旧をご依頼いただきました。論理障害が発生していましたが、修復処置およびファイルのヘッダー情報をもとにした切り出しによる復元により41ファイル(約24GB)のデータ復旧に成功しました。
ニュースに使用する過去の映像データを確認している中で、データを保存していたはずのブルーレイディスクが空の状態になっていることが分かりました。ブルーレイディスクにデータを保管する際は、実際に編集で使用するためのディスクと、完全保管用のマザーディスクを2枚同時に作成しています。今回はどちらも、何故か普段上がって来るはずのニュースごとに分けられた映像のクリップが出てこない状況。プロパティでデータ容量を確認しましたが、フルに使用と出ているにも関わらず、データ自体が上がってこず、途方に暮れてしまいました。
放送に関するシステムからパソコン周辺の環境まで社内の技術局が管理しています。そこでも色々と手を尽くしましたが、どうしてこうなったのか、そもそもデータのダビングに失敗していたのかも分からないということで、技術局長からデータレスキューセンターさんを紹介されました。自分でもホームページを確認しましたが、信頼出来る会社だと思い、すぐに申し込み、発送しました。
検索用と保管用どちらのディスクも読み取れませんでしたので、ひとまず2枚とも送付しました。オンラインから申込みをするとすぐに状況確認の電話をいただきましたが、まず1枚のディスクの調査結果を見てデータが足りない等の問題があれば、もう1枚のディスクからの調査を追加で行う等、今後の流れについて確認した上で、まずは検索用のディスクから調査をお願いしました。
今回お願いしたデータは、過去に放送したニュース映像のOA素材でした。長崎では10月7日から9日の3日間、長崎県長崎市の諏訪神社の祭礼である長崎おくんちが間催されます。その年に奉納踊を披露する当番の町を踊町(おどりちょう)といい、現在は長崎市内の59カ町が7つの組に分けられています。当番は7年一巡となっており、今年は特に全国的に人気の高い「コッコデショ」と呼ばれる太鼓山が参加します。
注目度が高い内容のため、おくんちに向けた特集を組もうと以前ニュースに使用した7年に1度の踊町に関するデータを確認している中で、データを保存していたはずのブルーレイディスクが空の状態になっていることが分かりました。しかも、今回はバックアップのディスクにもトラブルが発生している状態。貴重なデータですので、どちらのディスクからでも構わないのでデータの復旧が可能であれば・・・と、わらにもすがる思いで依頼しました。
本当にデータが復旧出来るのか半信半疑な所もあり、調査結果が出るまで落ち着きませんでしたが、ディスクが到着した翌日にはデータは復旧可能と連絡をいただき、ほっとしました。調査結果の報告でいただいた復旧可能なデータリストを、社内のデータ検索システムに残っている該当データアーカイブと照らし合わせたところ、41ファイル中38ファイルは復旧可能でしたが、3ファイル不足していることが分かりました。とりあえず38ファイルの復旧指示を出し、不足している3ファイルについてもどうにか復旧出来ないか、再度データレスキューセンターさんに相談しました。最終的には残りの3ファイルついても追加で復旧可能となり、全てのデータを復旧をしていただくことが出来ました。データレスキューセンターさんの技術力に本当に感謝しています。
データレスキューセンターより
「全部で41ファイルの動画データがあったはずとご連絡をいただきましたので、追加で確認作業を行いました。ヘッダー切り出しで見つかったデータの中にはそのままでは再生出来ない映像データが含まれており、このデータがお客様のご希望の動画と推測されました。
なお、ヘッダー切り出しとは各種ファイルの先頭部分(ヘッダー)の特徴と合致する部分をファイルの先頭とみなし、データ区画を細かく切り出してファイルを再現する復旧方法ですが、ファイルとして見つかっても展開できない場合は修復作業が必要となります。
今回、バラバラになったメタデータと映像データ部分の正しい組み合わせを特定した上で、メタデータを解析して映像データ部分の破損個所の修復や再生に影響する不要な部分の除去を行うことで、再生可能なデータとしてお渡しが可能となりました。」
復旧の指示を出した翌日にはデータが手元に戻り、スピード感にも驚きました。戻ってきたデータをすぐに確認しましたが、映像も音声も保管した時のままの状況で復旧出来ていました。機器での再生、編集にも問題なく使用でき、追加で復旧いただいた動画データに関しても完璧に復旧されていて技術力の高さを感じています。
すぐにブルーレイディスクに焼き落とし、保管用と検索用を再度作成。今回の教訓も兼ねてラベルには通常情報と合わせて「※データレスキューセンター復旧分」と印字させていただきました。
長崎文化放送は平成2年開局、社内には28年分のデータが保管してあります。データの検索に関しては「メディアコンシェルジュ」と呼んでいる社内のデータ検索システムがあります。
そのサーバーには文字情報だけでなく、低画質ですがブルーレイディスクに保管しているデータと同じデータが残っています。過去の映像を使用したい時はこのシステムでコンテンツごとに該当する日付やキーワードで検索をかけ、該当するテープやブルーレイディスクをアーカイブ室で探し、該当するものを編集機にかけて使用しています。
テープデータのデジタル化はデジタル放送が始まった2010年頃から取り組みがはじまりました。報道制作局にアーカイブ室がありデジタル化の作業をしていますが、OAしたニュース映像についてはデジタル化を完了し、今はニュースや番組を制作する時に使用した素材データのデジタル化を進めています。
デジタル化の方法については、まずテープ映像をデジタルに変換した上、完全保管用と実際に検索したり編集に使用する検索用に2枚のブルーレイディスクを作成します。この時、高画質と低画質2種類のデータを作成し、高画質をブルーレイディスクに保管、低画質を前述のデータ検索システムに保管して使用しています。
ディスクに正常にデータが保存されているのかのチェックは編集機で行い、ラベリングをした後、テープ保管庫という温度管理をしている部屋でケースに入れて保存しています。この時使用したバックアップ済みのテープについては適切な方法で廃棄を行っています。また、高画質版のデータについても念のためサーバー内に一時保管していますが、データ量が大きいため一週間の保管期間を過ぎるとサーバー内からは全て削除しています。
デジタル化を始めた当初は不織布のケースでディスクを保管していましたが、不織布ではディスク面を傷めることがわかってから、すぐに全てのディスクをケースで保管する形式に変更された経緯があります。
使用するブルーレイディスクについてもメーカーに問い合わせをして保証等がしっかりしている製品であることを確認して使用しています。ただ、大量生産品には違いありませんので、初期不良など予期せぬ物が混じっている可能性もあるでしょうし、純正のメーカー製品でも海外生産品については不安が無いわけではありません。
テープからのデジタルダビングは1時間の番組内容であれば1時間の実時間をかけて映像をデジタル化する必要があります。その時間、作業員は映像や音声に乱れがないか監視、トラブルがあればテープや機材のチェックを行い、再度乱れがないデータ保管に取り組みます。テープは頭からお尻まで色々な映像が入っていますので、デジタル化する際は目視で番組の区切りを確認して手動で停止、クリップ化を行っています。さらに、そのクリップに検索システムに必要な放送日時や番組情報などのメタデータを追加していくので、実作業は1時間ではすみません。
目下の課題は、過去の放送に使用した取材用、番組のテープが大量にあるにも関わらず、テープを再生出来る機器自体がなくなってきている点です。テープと一言に言ってもBETACAM(ベータカム)、BETACAM-SP、BETACAM-SX、HDCAMとテープの品質が向上するごとに再生する機器も互換性がない機器に変わってきました。D1-VTR、D2-VTRなどのテープもあります。
日々デジタル化の作業を行っていますが、今ある再生機器が故障すると修理の手立てがないギリギリの段階まで来ています。もちろん古い機器から作業を優先して行いたいのですが、そもそも古い機器を正しく取り扱える人員も限られている為、作業が追い付いていないのが現状です。
また、テープ自体の劣化も進んでいます。実際、ある時期のテープは年月が経つと磁粉が落ちてしまい、再生不良を起こすものがありました。それよりも古いフィルムに関しては再生しようとするとフィルム自体が切れてしまうものもあります。1日に出来る作業量が限られている中でこうしたジレンマを感じています。
私たちはテレビ朝日系列ですが、年に一度データ保管に関する情報交換を各局で行っています。系列の局でも使用しているシステムやデジタル化の進捗に関しての違いがあるため、色々な選択肢がある中で各局が自分達にあった方法を選んで取り入れています。
現在進めているテープデータのデジタル化はまだまだ先が長いですが、古いテープのままではどうしようもないことは確かです。ひとまずデジタルデータにしておけば今後システムが変わったとしても対応出来るはずなので、現在各局が取り組んでいる共通の課題になります。
現在撮影については、ほぼデジタル媒体に直接データを保存する形式に移っていますので、カメラ本体にXD CAMやメモリーを装着、撮影後にそのまま編集をしています。こちらはテープとは違い、バックアップにかかる作業時間もかなり短く、撮影した時点でクリップとリストが上がってきます。それだけでは社内のデータ検索システムで使用するには不十分ですので、追加で撮影内容のメタデータを加えてから最終保管する必要がありますがそれでも早く済みます。
また、LTO(Linear Tape-Open/リニア テープ オープン)の方がXD CAMやブルーレイに比べて安価で大容量の為、取材テープの内容を一度こちらに移して、そこから内容を吟味してさらにブルーレイに保管するものを選ぶこともあります。
最近はデータ容量の大きなデジタルハイビジョンの取り扱いも増えてきているので、今進めているデジタル化の作業が終わる頃には、また新しいデータの保管方法が出てくるかもしれません。データの保管に関してはいたちごっこです。
昔と比べ、1つの動画に関わる著作権が増えたことでしょうか。番組などの放送には人物の肖像権だけでなく、使用する音楽、文字フォントなど様々な著作権が関連しています。その時1度の放送に使用することは許可されていても、その後続編を作る際に二次利用して放送をすることに関しては問題がある場合も考えられます。
また、テレビ放送で使用するための著作権と、インターネット配信で使用するための著作権が違うものもあります。著作権を侵害することはあってはならないことですが、こういった点はデジタル時代の難しさでもあると思います。
今回は時間よりもデータが確実に戻ることが重要でしたので、100%データを復旧していただき本当に感謝しかありません。データレスキューセンターさんには考え得る最短の時間と費用で最良の結果を出していただきました。
ブルーレイディスクの取り扱いについては十二分に気をつけていますので、今回の出来事はショックが大きかったです。特に、ディスクの故障や傷も想定して2枚でのバックアップ体制を構築していますが、まさか2枚ともトラブルが同時に発生するとは思ってもいませんでした。
念のため、依頼したブルーレイディスクの内容の前後に当たるディスクを確認したところ、こちらは正常に動作することが確認出来ましたが、今回の件は増え続ける膨大なデータをどのように管理していくのか改めて考える良いきっかけとなりました。
保管しているデータは全て作り直しのきかない財産です。中には今後、日の目を見ないデータもあると思いますが保管しておく価値がないデータはありません。映像データはうちの「商品」です。番組が出来るまでに企画、営業だけでなく色々な人の作業や流れがあって、最後にようやく放送にたどり着きます。この最後を消してしまうことは、過去の作業を全て消してしまうことに他なりません。
加えて、日々時間をかけてデータのデジタル化、バックアップ化に取り組んでいるのに、いざ使用しようとした時に破損しているという状況は自分達の仕事を無にしていることと同義です。手荒に扱った覚えは勿論ありませんが、トラブルが発生する原因の特定は出来ないとのことですので、今後も取り扱いには一層の注意を払いたいと思います。
トラブルが起きないように備えることがまず第一ですが、有事の際はデータレスキューセンターさんにお願いしたいと思います。本当にありがとうございました。
※お忙しい中、快くインタビューに応じていただいたH様、長崎文化放送様に心よりお礼申し上げます。