データ保存用のテープデバイスは歴史も古く、様々な規格の製品が発売されています。種類が豊富なため全ての規格を網羅することはできませんが、代表的なメディアに絞って簡単に解説します。
Linear Tape-Open(リニア・テープ・オープン)は、Seagate、HP、IBMの3社によって策定された規格です。
それまでの主流だったDLTやATIなどへ対抗するため、オープンフォーマットの規格となっています。法的な制約がないこと、汎用性・信頼性の高さが評価され、売上は他の規格を圧倒しており現在の業界標準の規格となっています。
2000年に第1世代(LTO1)が発売され、以降数年おきにバージョンアップを行っており、最新世代は2017年に発表された第8世代(LTO8)になります。ロードマップでは12世代(LTO12)で保存容量192TB(圧縮時は480TB)の大容量が予定されています。
テープ本体は30年程度の寿命とされていますが、テープを読み出すドライブの互換性も広く取る仕組みになっており、2世代前のテープの読み込みと1世代前のテープへの書き込みが規定されています。
LTOデータカートリッジ仕様
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品名 | Ultrium1 | Ultrium2 | Ultrium3 | Ultrium4 | Ultrium5 | Ultrium6 | Ultrium7 | Ultrium8 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
記憶容量 | 100GB | 200GB | 400GB | 800GB | 1.5TB | 2.5TB | 6.0TB | 12TB |
圧縮時 | 200GB | 400GB | 800GB | 1.6TB | 3.0TB | 6.25TB | 15TB | 30TB |
トラック数 | 384 | 512 | 704 | 896 | 1280 | 2176 | 3584 | 6656 |
テープ幅 | 12.65mm | |||||||
テープ長 | 609m | 680m | 820m | 846m | 846m | 960m | 960m | |
テープ厚 | 8.9um | 8.0um | 6.6um | 6.4um | 6.4um | 5.6um | 5.6um | |
外形寸法 | 105.4x102x21.5 |
LTOドライブ対応表
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ドライブ | LTOメディアタイプ | ||||||||||||||||
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Ultrium 8 |
Ultriumbr 7 |
Ultrium 6 |
Ultrium 5 |
Ultrium 4 |
Ultrium 3 |
Ultrium 2 |
Ultrium 1 |
UCC | |||||||||
Read | Write | Read | Write | Read | Write | Read | Write | Read | Write | Read | Write | Read | Write | Read | Write | USE | |
Ultrium 8 |
○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | ○ |
Ultrium 7 |
× | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × | × | × | × | × | × | ○ |
Ultrium 6 |
× | × | × | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × | × | × | × | ○ |
Ultrium 5 |
× | × | × | × | × | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | × | × | ○ |
Ultrium 4 |
× | × | × | × | × | × | × | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | ○ |
Ultrium 3 |
× | × | × | × | × | × | × | × | × | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ |
Ultrium 2 |
× | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
Ultrium 1 |
× | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | ○ | ○ | ○ |
シングルリールの構成で、テープの巻取りはテープドライブ側に行われます。この構造により、容積当たりの保存可能データ量や保管場所の確保に優位性があります。
テープの走行方向に対して直線的にデータを記録し、高速な読み書きが可能で、耐久性にも優れています。
テープ読み出し時のヘッドやテープへの負荷が少ない構造となるので、テープの寿命が長いものとなっています。
リニアテープと同じ技術が基本となりますが、独自の進化を遂げたエンタープライズ製品となります。
2018年に発売された3592ファミリのTS1160が最新の規格となります。速度向上に合わせて読み書き時のエラーや誤り訂正の機能等を高度に実現化した製品として評価されています。
Digital Linear Tape(デジタル・リニア・テープ)は、1984年にDEC社が同社のMicro VAX II ワークステーション向けに開発したものが最初となります。1/2インチ幅の磁気テープで、カートリッジに納められています。
1994年にクワンタム社がDEC社のテープ部門を買い取り、以降も開発が続けられSuper DLT(スーパー・ディーエルティー)という上位互換規格も存在していました。
歴史が古くかつては業界標準規格の一つでしたが、LTOに完全にとってかわられ、2006年に発売されたDLT-S4以降は新規製品の発表がされていません。
Advanced Intelligent Tape(アドバンスド・インテリジェント・テープ)は、1996年にSONYが発売していたヘリカルスキャン方式のテープメディアです。
AIT2~AIT5、SAITと開発が続き、DLT同様に業界標準規格の一つでしたが、LTOにとってかわられたため現在では新規格は出ていません。
ヘリカル・スキャン方式はテープの走行方向に対して斜めに傾けられたヘッドでデータを記録することで高密度な記録をします。リニア方式と比較すると、ヘッドやテープへの負荷が大きい製品となり、定期的なヘッドの交換やクリーニングが推奨されていました。
Digital Data Storage(デジタル・データ・ストレージ)は、音楽のデジタル録音用のDAT(Digital Audio Tape)を元にしたSONYとHPの共同開発の規格です。記録装置がDDSで、記録媒体がDATとなります。
1989年に「DDS-1」が登場し1999年の「DDS-4」、規格名称がかわり2003年の「DAT72」や2009年の「DAT320」と発展していきましたが、2012年の新規格発表を最後に開発団体も解散しており、開発は完全に途絶えています。
Quarter-Inch Cartridge(クオーターインチ・カートリジ)は、1972年に3M社が開発した規格です。1993年に8mm幅のQIC-Wide(クイックワイド)に発展しています。日本ではあまり普及していませんが、海外には多くの規格があります。
テープカートリッジには、5.25インチのベイに収まるデータ・カートリッジと3.5インチの米に収まるミニ・カートリッジがあります。
その他にも下記のような規格があります。
テープメディアは19世紀末にその原型が誕生したとされています。
実用化されたのは第二次大戦中のドイツにおいてです。連合国はドイツのラジオ放送の音質が良いことに興味は抱いていたのですが、実態を把握したのは終戦になってからだそうです。その技術は戦後アメリカに引き継がれることになります。
最初のコンピュータ用テープストレージは、1951年に登場したRemington Rand(現在のUnisys)製のUNIVACⅠに搭載されました。世界初の(科学用途ではない)ビジネス向けの汎用コンピュータで、アメリカの国勢調査や軍隊、原子力委員会などの政府機関において使用されています。
当時のコンピュータの入出力はパンチカード式が主流でしたが、テープからの読み出し、書き出し機能を初めて備えており、カード方式からの切り替えによりデータ処理が非常に高速に行えるようになりました。
テープメディアはそれ以降も小型化、カセット化が進み、音楽用途など一般家庭でも広く普及、発展していきます。
テープはデータストレージの主力として活躍していましたが、ドライブへのセットはまだ人の手で行われていました。そこでロボットを利用してテープを自動でセットする、ちょうどジュークボックスのような仕組みが実用化され、大型のサーバー機に採用されていきます。
しかし、同時期に個人向けのパーソナルコンピュータが登場し、そのデータストレージとしてHDDが採用されたことでシェアが拡大し、テープストレージ市場は急激に縮小し始めます。容量、速度、コストなどHDDの方が上回ることになると、テープは市場の支持を完全に失っていきました。
コンピュータによるデータの管理が一般的になってくると、参照頻度は低いが一定期間は保存しておかなければならない、例えば法令順守のための経理や取引のデータ、実験や観測の計測データなどが増大するようになり、テープは「利便性は悪いがその分大容量データを低コストで保存可能」という特性により見直されることになります。
テープメディアも大容量化が進み、容量当たりの価格や体積当たりの保存容量でほかのメディアを上回るようになると、再び活用されるようになりました。
テープの規格としてはDLTやAITなどがそれまでの業界標準でしたが、一社独占の弊害もあったため、よりオープンな仕様が求められるようになりました。そこでHP、IBM、Seagateの3社が共同で作成したのがLTO(リニア・テープ・オープン)規格で、以降LTOがテープストレージのスタンダードとなっていきます。
テープメディアは現在ではGoogleやAmazonなどの大型データセンターでもバックアップにはテープが利用されており、現在ではデータ用テープの生産量も少しずつ増加し続けています。
近年バックアップメディアとして、テープが再び注目されるようになってきました。どういった面から注目されるようになってきたのか、メリット・デメリットを比較しながら解説します。
メリット:コストパフォーマンス
テープメディアそのものの容量単価で比較すると、HDDに比べると若干コストが安くなります。LTO-8の12TBのテープは3万円前後ですが、同容量のHDDでは3~5万円程度の価格です。ただしテープは圧縮時には30TBまで書き込めますので、容量単価はさらに下がります。
また物理的なサイズでも、体積単位の保存容量で比較するとテープの方が圧倒的に上回るので、保管コストにも大きな差がでます。その他に運用コストにおいても電力消費はHDDの1/6程度と試算されています。
そのためHDD/SSDは保存容量に応じて比例的にコストが加算されていくのに対して、テープは保存容量が数倍に増加しても加算は一定額で収まるというのが大きなメリットになります。
デメリット:システム全体の価格
多数のテープを扱うことが前提になるので、その場合のオートメーション化などシステム全体を見ると価格は高くなりがちです。テープドライブだけでも数十万の価格になりますので、初期導入費用はそれなりにかかることになります。
メリット:オフラインでの保管
保管には電力は不要なので停電などの影響も受けず、可搬性に優れるのでより安全な遠隔地での保管も可能です。特に東日本大震災以降は、テープは災害時でも復旧作業に即応しやすいという点で大きく見直されることになりました。
また通常時においてもドライブに挿入されていなければ読み出し・書き込みが出来ないので、人為的な誤削除やウイルス感染の発生リスクも抑えられます。
デメリット:保管のコスト
テープ交換のためのコストや、保管場所の設置、保管場所へ、または保管場所からの輸送などのコストも発生します。バックアップは残すだけではなく、バックアップからの復旧は具体的にどのように行っていくかまで含めた計画立案が必要となります。
メリット:高い耐久性
テープメディアは耐用年数が30年程度とされており、またLTOテープの場合で、フル容量のデータで100回以上読み書きを行っても問題がない、同一箇所の40,000回走行でも問題がない等、高い耐久性を誇ります。
デメリット:磁気やホコリに弱い
強い磁気を発生させているものに近づけると、データの破損や消失の可能性があります。
またHDDとは異なり密封されていないので、付着したホコリによるテープの傷の発生には注意が必要です。そのためホコリが付かないよう専用のプラスチックケースで保管する必要があります。
また磁気ヘッドは、摩擦による汚れの除去などの定期メンテナンスも必要となります。
メリット:高速な転送速度
LTO-8のデータ転送速度は、非圧縮時において300MB/s、圧縮時で750MB/sとなります。HDDの転送速度が150~250MB/s程度、SATA接続のSSDで500MB/s程度であることを考えると、テープの転送速度は非常に高速です。
デメリット:ランダムアクセスが苦手
磁気テープはテープ上の連続した領域を順に読み書きする性能は高いですが、不連続な位置のデータにアクセスする場合にデータを読み込まない「空送」が発生するため、ランダムアクセスには向いていません。
ただしこれはデータバックアップ用途のみでの使い方であれば、大きなデメリットにはなりません。またテープ用ランダムアクセス向けのファイルシステム「LTFS」の登場により、特定のファイルを取り出すような用途においても使い勝手が向上しつつあります。
保存メディアとしてテープが一方的に勝っているわけではありません。特にある程度の頻度でアクセスする必要がある場合はやはりHDDやSSDの利便性が上回るケースも多々あります。
例えばデータ量が少なく、高程度のアクセスが発生する場合はSSDに、データ量が多くアクセス頻度が中程度ならHDDになど、メディアの特性に応じて複数のストレージを柔軟に組み合わせていくのがお勧めとなります。
磁気テープの保存容量はテープ磁性体の面記録密度にほぼ比例しています。
現行世代のテープの磁性体はバリウム・フェライト(BeFe)を用いたもので、富士フイルムが2011年に世界で初めて実用化したものです。
また最新技術では、2020年に富士フイルムとIBMで共同開発したストロンチウムフェライト(SrFe)磁性体を利用した実走行試験の成功を発表しています。
面記録密度317Gbpsi(ギガビット毎平方インチ)が可能で、テープメディア一本あたりの記録容量580TBが可能になるとされていますので、従来品(LTO-8)と比較すると約50倍という容量が達成できそうです。
高解像度の画像や動画、AIなどで利用されるビッグデータ、便利なクラウドサービス、誰もがスマホなどの機器を利用して様々なデータにアクセスする現在、毎日250京バイト(2.5EB(エクサバイト))のデータが生成されていると言われています。
この数字もIoTの進化に伴い、身近な家電製品ですらデータのやり取りが行われることになるとますます増加していくと見られています。
2020年5月の調査では、2020年の全世界のデータ総量は59ZB(ゼタバイト)、2025年には175ZBになると予想されています。なおこの数字は2010年の段階では現在の1/60、2000年では1/10000と計測されていました。いかに飛躍的に増加してきたのが分かります。
これらをHDD/SSDだけで保存しようとすると、データセンターなどの稼働に利用されるエネルギー消費が莫大なものとなり現実的ではありません。常に稼働し続けるHDD/SSDは待機しているだけでもエネルギーコストがかかりますが、テープメディアであれば、使用していないときはエネルギーが不要で、適切な保存であれば30年の長期間が可能となります。
この大容量のデータがあふれる現在、60年以上前に生み出されたテープデバイスのテクノロジーが期待されているのです。
2011年2月にGoogleのメインサービスの一つであるGmailにおいて、最低でも数万アカウント分のメールデータが消失する障害が発生しました。
公式発表によれば、障害の原因はストレージソフトウェアの更新に含まれたバグになり、ストレージソフトウェアはすぐに旧バージョンに戻されています。
そのうえで、消失したデータに関してはバックアップしていたテープからリストアし、データの復旧に至っています。
一般では見かけることが殆ど無くなったテープストレージですが、特化した用途向けに進化を続けることで生き残ってきました。今後も大容量データの保存が可能ながら低コストで信頼性が高い点、オフラインの状態でデータ保存が行えるため、サイバー攻撃などの影響を受けにくい点などから、急速な増加を続けるデータの保存先として利用されていくことが予想されています。
ビッグデータやDX(デジタルトランスフォーメーション)が言われて久しいですが、過去にバックアップしていたテープがあるけれども、何が入っているかわからない、読み出しのテープドライブがないというご相談をうけることがあります。
テープに保存されているデータのカタログ化を行うことで、アーカイブデータの管理、不要なデータの分離、必要なデータの利用が可能となります。
テープの規格やバックアップソフトの違いで、多岐にわたってバックアップされてしまい、扱いをどうしたらいいかわからないデータはないでしょうか。
バラバラなフォーマットを共通フォーマットに置き換える、複数のテープにまたがって保存されているデータを一本化する、HDDなどにコピーして手軽にアクセス出来るようにするなどで、有効にデータを活用できるようになります。
データレスキューセンターでは、現在までに使われてきた様々なテープメディアに対して、上記の対応を含めデータを復旧することが可能です。
テープメディア(磁気テープ)のことでトラブルが発生した場合は、お気軽にご相談ください。