UPSを導入して万が一のリスクに備えましょう。
「UPS」は「Uninterruptible Power Supply」の略称で、日本語に訳すと「無停電電源装置」となります。バッテリを内蔵し、停電や断線といった電源トラブル時に電力を供給する装置です。
主に商用電源から電力を受けつつそれを蓄積しておき、停電時に自動的に代替電源として使用されます。24時間稼働が求められるコンピュータや通信機器などの他に、クリーンルーム、溶鉱炉の制御装置、発電所、航空管制塔などでも利用されています。
UPSがないと停電時に機器が一度に停止することになり業務に大きな支障をもたらしますが、UPSを使用することでそういった局面を回避することができます。
電源系統のトラブルで電圧が急に変動するなどの問題が発生した際に、機器に安定した電圧を供給できる機能を持つものもあります。
元々は企業などで使用される大型のものが主流でしたが、最近では小規模オフィスや一般家庭向けの小型のものも普及し、家電量販店などでも販売されるようになりました。
ネットワーク接続でデータの共有ができるNAS(Network Attached Storage)も、以前は企業向けのものがほとんどでしたが、現在は家庭向けの製品も一般的になってきています。USB接続の外付けHDDとは違い、NASやRAIDは24時間稼働し続けるものですが、停電で止まりデータが失われてしまったというご相談をいただくケースも増えています。UPSを利用することでそういったリスクを回避できるのです。
UPSのバッテリは消耗品のため定期的に交換する必要があります。一般的な製品の交換時期の目安は2~3年といわれており、最近のリチウムイオンバッテリ搭載モデルだと10年間使用できるものもあります。期限を過ぎたバッテリを使用していると、停電時にUPSが十分な時間給電できずに機器がストップしてしまう可能性があります。液漏れが発生してUPS自体が故障してしまう危険性もあるので、バッテリの交換時期には注意が必要です。
UPSの需要は古くからあったようで、太平洋戦争以前には通信用として既に実用化されていたという記録が残っています。日本国内では太平洋戦争以後、鉄道の近代化によってその需要が本格化したといわれています。鉄道の車両内で電気機器を使用するために発電機や蓄電器が搭載され、用途に応じた様々な機器が開発されたそうです。
開発当初、大規模電源に使用されたのは「回転型無停電電源装置」でした。フライホイール(はずみ車)と呼ばれる円盤を常時回転させて回転エネルギーを蓄積し、停電時にはその回転エネルギーを電力に変えるという仕組みになっています。いったん回転エネルギーに置換することで、不安定な電源を安定させるという効果もあります。
1960年代に入ると、半導体素子を利用した静止型UPSの製品化が始まりました。フライホイールを使用しないため、それまでのものと比べて小型化が容易になりました。1980年代になると、パワートランジスタの登場によって効率化、小型化が進みます。さらに1990年代には、パワートランジスタの10倍以上の高速動作が可能とされるIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が使用されるようになり、それまでできなかったPWM(パルス幅変調)制御が可能になり、より効率化が進むことになりました。
現在では商用電源からの給電をおこないつつ、同時に内蔵バッテリに蓄電する静止型UPSが一般的です。内蔵されるバッテリは鉛蓄電池が主流でしたが、近年ではリチウムイオン電池を使用した製品も販売されています。
鉛蓄電池は充電可能な二次電池の中でも非常に古い歴史のあるもので、身近な製品でいえば自動車のバッテリなどが代表的です。原料となる資源の調達が容易でリサイクルも可能なため、製造コストが安いのが特長です。長く研究開発が行われているため製品実績も多く、信頼性も高いといえます。しかし製品自体の重量が重く、小型化が難しいという面もあります。
リチウムイオン電池が製品化されたのは1990年に入ってからです。鉛蓄電池よりも歴史は浅いですが、エネルギー密度が高く小型化も容易なため、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末向けを中心に広く普及しています。リサイクルはできず、原料資源も鉛と比べて希少なので比較的高価になりますが、電池の残量や充電の状態が監視しやすいという特徴があります。リチウムイオン電池搭載のUPSは、鉛蓄電池モデルと比べて本体サイズが半分程度になり、バッテリ寿命も2倍に伸びて扱いやすくなっています。
UPSは給電方式によって常時商用給電方式、ラインインタラクティブ方式、常時インバータ給電方式の3つに分けられます。
常時商用給電方式はオフラインスタンバイ方式とも呼ばれ、機器に対して商用電源からの電力をそのまま出力し、同時に内蔵バッテリへ充電してバックアップ運転に備えます。電源異常が発生してからバッテリ給電によるインバータ運転に切り替わるまでの間に瞬断が起こりますが、パソコンやサーバなどの一般的な機器ではほとんど問題がないとされています。通常使用時は商用電源をそのまま機器に流すので、バッテリへの切り替えを行わない程度の不安定な電圧から機器を保護することはできません。
ラインインタラクティブ方式は基本的な仕組みは常時商用給電方式と同じですが、AVR(電圧安定化)機能が搭載されています。電圧を変換するトランスを経由することで電圧が常時AC100V出力に近づけるよう調整され、バッテリ稼働でない場合でも安定的に電圧を供給することが可能です。
常時インバータ給電方式はオンライン方式・ダブルコンバージョン型とも呼ばれます。商用電源をいったん整流器で直流に変換し、バッテリを充電しながら常時供給します。供給する電力は定電圧定周波数制御インバータによって商用電源に同期され、電圧や周波数の変動を抑えることができます。常にインバータを経由しているため電力を多めに消費するデメリットがありますが、商用電源に異常が発生した際も瞬断が起こることがないのも特長です。入力電圧の状況に応じて電圧の変換を行い、一定電圧の安定した給電を行う高効率なものもあります。
これまで説明してきたように、UPSは「停電時の緊急電源」がメインの機能で、ラインインタラクティブ方式や常時インバータ給電方式は「不安定な電圧の安定化」も可能です。
実際の製品には、ほかにも便利に扱えるよう様々な機能が備わっています。
停電が短ければ蓄積した電力で接続機器の電源を維持できますが、停電が長時間にわたった場合、最終的にバッテリ容量がゼロになると機器の電源が断たれてしまいます。そういった事態に陥らないよう、UPSと接続しているパソコンやNASと通信ケーブルで接続し、一定時間電力が回復しない場合に安全にシャットダウンする仕組みが備わっています。
また、UPSのバッテリ交換時に電源を落とす必要のない「ホットスワップ」機能が備わっているUPSもあります。ホットスワップ可能なUPSであれば、接続した機器に電力を供給しつづけながらバッテリの交換が可能となります。
ちなみに、一般的なノートパソコンにはバッテリが搭載されていますが、このバッテリがUPS代わりになっているというのをご存知でしょうか。
ACアダプタを接続した状態でノートパソコンを使用中に停電が起きたりすると、当然コンセントからの給電は止まってしまいます。給電が止まればパソコンは強制終了してしまいますが、バッテリが搭載されていることで強制終了を避けることができます。
停電などの電源異常時にバッテリが搭載されていれば、AC電源からバッテリに自動的に切り替わります。そのまま使用を続けた場合でも、バッテリ残量が少なくなれば自動的に節電モードなどへ移行し、バッテリが空っぽになる前に正常にシャットダウンができるのです。
このように、ノートパソコンでACアダプタを接続した状態の場合は、搭載されたバッテリがUPSと同じ役目を果たしているといえます。バッテリに内蔵されているリチウムイオン電池の寿命を縮めないためにバッテリを取り外してノートパソコンを使用するケースもあるようですが、電源異常時の故障やデータの喪失といったリスクから考えるとあまりお勧めできるものではなさそうです。
また、ネットワーク上でデータを共有するNASには、大容量の内蔵バッテリを搭載するモデルもあります。停電などの電源遮断の際に、緊急的に内蔵バッテリで動作しデータの喪失を防ぐそうです。しかしこういったモデルでも、停電状態が長く続けば動作はストップしてしまいます。あくまで緊急用の機能であって、やはりリスクの低減にはUPSを導入する方が賢明といえそうです。
UPSとは異なりますが、災害時の緊急用電源装置として近年注目を集めているのがポータブル電源です。スマートフォンなどで使用するモバイルバッテリよりも大量の電力が使えるため、キャンプや車中泊だけでなく、災害時の備えとしても注目されています。
ACアダプタやUSB端子を複数接続できるモデルが多く、電源のない野外でもパソコンやスマートフォンを使用、充電することができます。電気毛布などの長時間使用にも耐える大容量モデルも販売されています。ポータブル電源はUPSとは違い災害や停電が起こった後にしか使用できないので、データ喪失のリスクを低減できるものではありませんが、非常用の備えとしてあると便利そうです。
このように、電源異常によるデータの喪失を防ぐ機器や機能はさまざまあります。しかし、どんな電気製品も台風や地震などの天災によって電力供給がストップすれば止まってしまいます。落雷によって電圧異常が発生し、機器そのものが故障する事例も珍しくありません。停電後に機器が正常動作しなくなり、データにアクセスできなくなったというご相談を受けることも多いです。そういったリスクを回避するためにも、UPSの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
万が一、電源異常によってデータにトラブルが発生した際でも、データレスキューセンターならデータを復旧できる可能性が十分あります。諦めずに、ぜひ一度ご相談ください。